2006年05月05日 EU外交・安全保障

麻生外相が欧州委員会のバローゾ委員長を表敬訪問

ジョセ・マヌエル・バローゾと麻生太郎
© European Community, 2006
欧州委員会のバローゾ委員長(左)の歓待を受ける麻生太郎外務大臣(右)。

日本の麻生太郎外務大臣は、中央ヨーロッパ時間4日、ブリュッセル(ベルギー)の欧州委員会本部を表敬訪問し、ジョセ・マヌエル・バローゾ委員長と会談した。

今回の会談は、先月24日に東京で行われた日欧首脳会談のフォローアップの意味合いが大きい。

〔基本価値と国際社会〕

さきの日欧首脳会談においては、イラン・イラク・中東和平・北朝鮮・中国などの国際的諸問題に関して幅広く突っ込んだ議論が行われ、また、結論についても、日欧間の友好的なパートナーシップを感じさせるものとなった。このことは、近年、日米同盟を主軸とした外交を展開してきた日本が、国際的なプレゼンスを増してきたことの表れと見ることができる。

日欧首脳会談の共同記者会見で小泉首相とバローゾ委員長が共通して指摘したように、日欧は、自由・民主政・人権尊重・法治国家といった基本価値をまさに共有しており、合衆国もまたそれを共有している。そもそも、EU自体が、これらの基本価値を基盤とした国家結合であり、三共同体の時代から、伝統的にこの基本価値と牴触する存在を排斥してきた。例えば、欧州諸共同体は、スペイン・ギリシャなどに見られたかつての独裁政権には決して門戸を開かなかったし、旧共産圏の独裁政権にも決して門戸を開かなかった。これらの国々の加盟が認められたのは、独裁が廃棄され、国家体制が上記の基本価値に適合するようになってからのことである。

したがって、日欧の双方がお互いに基本価値を共有しているということは、外交政策上きわめて意義深いことである。これに対し、EUは、中国・ロシアを人権侵害国家と考えている。

一年前には、EUにおいては日本よりも中国に対する関心が高く、実際、(天安門事件に起因する)対中武器禁輸の解除の一歩手前まで行ったが(日米や欧州議会の反対により結局挫折した)、今回の日欧首脳会談では、共同宣言に、対中武器禁輸解除に対する日本の反対が明記されるなど、かなり日欧間のパートナーシップを重視する内容となっている。

また、イランの問題に関しても、日欧米が認識を共有し、中露がそれに異を唱えるという恰好となっている。

さらに、北朝鮮の問題に関しても、日欧がともに北朝鮮に対して六者会合(いわゆる六か国協議)に復帰するよう圧力をかけ、EUは拉致問題の解決に向けた努力に対する支持を表明するなど、EUは完全に日本寄りの立場となっている。

〔日欧経済関係の強化〕

現在、日欧ともに経済は上向きとなっており、相互の市場に対する関心は高まっているが、さきの日欧首脳会談の共同記者会見でバローゾ委員長が指摘したように、日欧は世界経済の40パーセントを占めており、相互の経済的な連携を強化していくことにより、日欧はさらなる経済発展を遂げることが可能であると認識されている。

この意味で、税関相互支援協定の実質合意に代表されるように、貿易障壁の除去を推進していく必要性を日欧双方が認識しており、また、その方向で協議が進められている。議長国オーストリアのシュッセル首相が述べたように、今後も、「日・EU双方向投資促進のための協力の枠組み」にのっとり、相互の投資の拡大を見据えた資本貿易障壁除去などの措置が講じられていくものと見られる。

また、二重課税や二重社会保険負担の防止に関しては、日英新租税条約・日仏社会保障協定・日白社会保障協定が実績として挙げられた。また、知的財産権に関しても、これまでの議論に満足の意が表明され、さらに対話を継続する旨が表明された。

しかし、航空輸送に関する法制度をいかに収斂させていくかについては、日欧の主張の隔たりは大きかった。

次回首脳会談までの重点分野には、日欧規制改革対話、日欧税関相互支援協定の署名、ユビキタスネット社会の実現、インターネット・ガヴァナンスにおける連携強化、ブロードバンドを通じたデジタルコンテンツ配信の促進、会計基準問題の解決策、知的財産権対話の継続が挙げられた。

このうち、会計基準については、日本側の会計基準が国際基準に適合していないことがそもそもの問題であるから(EUはいわゆるIAS基準を採用している)、日本側が、自らの基準を国際基準に収斂させる形で歩み寄ることが求められる。

〔その他〕

さきの日欧首脳会談の折には、シュッセル首相とバローゾ委員長が天皇陛下に拝謁した。これは、2004年に当時のプローディ委員長が天皇陛下に拝謁して以来のことである。

そのほか、EUによる琴欧州関への化粧まわしの贈呈、神戸大学からバローゾ委員長への名誉博士号授与、ヴィーン少年合唱団の合唱などのイヴェントも行われた。