2006年05月05日 EUエネルギー

EU:ボリビアの天然ガス資源国有化を牽制

アンドリス・ピーエバルクスとマルティン・バルテンシュタイン
© European Community, 2006
オーストリアのマルティン・バルテンシュタイン大臣(左)と、欧州委員会のアンドリス・ピーエバルクス委員(右)。

欧州委員会のアンドリス・ピーエバルクス委員(エネルギー担当)とEU議長国オーストリアのマルティン・バルテンシュタイン(Martin Bartenstein)エネルギー大臣は、中央ヨーロッパ時間3日、ボリビアの天然ガス資源国有化を牽制する声明を発表した。

南米の最貧国ボリビアでは、1990年代にタリハ県(Tarija)で天然ガス資源(その埋蔵量は南米第二とされる)が発見され、その扱いを巡って大規模な国内紛争状態が続いている。紛争の経緯はきわめて複雑であるが、2005年以後は、天然ガス資源を国有化するか否かに焦点が絞られている。

国有化派は、外国企業の排斥ないし外国企業による利権の収奪の防止を意図している。その背景には、大航海時代以後スペインに収奪され続け、シモン・ボリバルの活躍によりようやく解放された同国のつらい歴史がある(ボリビアという国名もシモン・ボリバルに由来する)。「奴隷として生きる前に死ぬ(Morir antes que esclavos vivir)」という国のスローガンも、そのことを表している。

現職のフアン・エボ・モラレス・アイマ(Juan Evo Morales Aima)大統領は、先住民の出身であり、国有化を公約に掲げて昨年12月の選挙戦に勝利した。このモラレス大統領は、先住民として初めてボリビア大統領に就任し、反合衆国・反グローバリズムを掲げ、「社会主義運動(MAS = Movimiento al Socialismo)」という政党を率いている。このため、南米における反合衆国の急先鋒であるベネズエラ(チャベス大統領)や、中国・北朝鮮などとともに残存社会主義国となっているキューバ(カストロ議長)に接近しているとされる。

なお、社会主義は、生産手段の支配権を資本家から労働者に移すために国有化が行われるべきことと謳っているため、国有化を正当化するイデオロギーとして機能する。

モラレス大統領は、1日、公約を実現すべく同国の天然ガス資源を国有化する政令に署名し、国有化宣言を行った。政令により、外資系企業は天然ガス田を返還しなければならないこととされ、天然ガスの販売権はすべてボリビア油田公社(YPFB = Yacimientos Petrolíferos Fiscales Bolivianos)が掌握するとされる。ボリビア政府は、油田の占有を回復するため、さっそく軍を派遣した。

しかし、欧州から見ると、これにより、英国石油(British Petroleum)、フランスのトタル(Total、フランス)、スペインのレプソル(Repsol-YPF)といった企業の利権が侵害されることになるため、EUとしても看過できない事態となってきた。

このため、ピーエバルクス委員とバルテンシュタイン大臣は、緊急に声明を発表し、ボリビア政府の動きを牽制することにしたものと見られる。

声明においては、ボリビアによる国有化について、それを外交上の既成事実としないように、慎重に「国有化計画(Verstaatlichungspläne)」という言葉が選ばれている。

そして、この「国有化計画」について、ボリビア政府に対し、(1)〔外資〕企業と対話による協力関係が続行する形で事態が推移することを期待する、(2)軍の投入に憂慮する、(3)今後EUは事態の推移を注視する、と論じている。