2006年04月14日 EU関税同盟・税制
欧州委員会:郵便局での付加価値税の取扱いに不満
© European Community, 2006
欧州委員会は、中央ヨーロッパ時間10日、ドイツ・連合王国・スウェーデンの3か国に対して、いわゆる第六付加価値税指令(sechste Mehrwertsteuer-Richtlinie)に関する条約侵害手続を開始した。
1977年に制定された第六付加価値税指令(共同体指令1977年388号)は、付加価値税(日本の消費税に類似する間接税)に関する各国の法規定を平準化するもので、その13条には、「公の郵便施設により行われるサービス及びそれに附随する物品の配送(人の輸送及び電気通信を除く。)(die von den öffentlichen Posteinrichtungen ausgeführten Dienstleistungen und die dazugehörenden Lieferungen von Gegenständen mit Ausnahme der Personenbeförderung und des Fernmeldewesens)」については、各加盟国は付加価値税を免除することと謳われている。
しかしながら、1997年に制定された郵便指令(Postrichtlinie、共同体指令1997年67号)により、国家による郵便独占制度を撤廃に向かわせる方向で規定している。しかし、新規参入の際に、旧独占企業体のみに付加価値税免除を許されているのであれば、新規参入の企業は不利となってしまうことになる。
このような中で、付加価値税免除による旧独占企業体の優遇を実質的に正当化する理由としては、ユニヴァーサル・サーヴィスしかない。つまり、旧独占企業体には、採算の合わない地域でも郵便物の受付や配送を行う義務が課せられる一方、その分付加価値税免除の特権を与えるということである(消費者としては付加価値税分が安くなるので、顧客が集まりやすくなる)。
ドイツでは、旧ドイツ連邦郵便(Deutsche Bundespost)がすでに分割民営化され(1989年分割、1994年民営化)、ドイツ郵便株式会社(Deutsche Post AG)、郵便銀行株式会社(Postbank AG)、ドイツテレコム株式会社(Deutsche Telekom AG)の三社となっていた。郵便事業に関しても多くの新規参入が行われた。
また、連合王国のロイヤル・メール(Royal Mail)は、1516年の設立から1969年まで統治機構の一部を構成してきたが、1969年以後は国営企業となっている(民営化はされていない)。今年の1月1日にようやく独占が撤廃され、新規参入ができることになった。
ドイツ郵便もロイヤル・メールも付加価値税が免除されているが、欧州委員会の主張によれば、少数の顧客に優遇条件で郵便サービスを提供する場合には、もはやユニヴァーサル・サーヴィスによる正当化は不可能だということになる。
これに対し、スウェーデンは郵便局(Posten AB)からも付加価値税を徴収しているが、これについても、欧州委員会は、郵便局からは付加価値税を免除することとしている第六付加価値税指令13条に反するとして、指令違反だということになる。
このように、欧州委員会は、矛盾する二つの主張をしている。しかしながら、そもそも、二つの指令自体が、矛盾する内容を含むものである。このため、欧州委員会は、2003年に、郵便サーヴィスにも付加価値税を課する法改正を提案したが、理事会で意見がまとまらず、先延ばしとされている。
今回の欧州委員会の一見不可解な行動は、理事会において法改正が進まないことに対する欧州委員会の苛立ちのデモンストレーションであり、また、加盟国へのあてつけであるともいえそうである(理事会は加盟国政府代表により構成される)。