2006年04月08日 EU開発・人道支援
欧州委員会:チェチェン人道支援に2200万ユーロ
© European Community, 2006
欧州委員会は、中央ヨーロッパ時間6日、チェチェン紛争の犠牲者支援に、新たに2200万ユーロ相当の人道支援を行うことを決めた。
チェチェン独立運動は、ロシアによる強権的な軍事制圧を目指す一方(その背景には、石油利権を確保する狙いがある)、チェチェン人がテロリズムによるパルチザン的抵抗を行っており(このため、ロシアは「反テロ戦争」の大義名分で内戦を続けている)、完全に泥沼化してしまっている。
1999年9月の第二次チェチェン紛争勃発以来、欧州委員会は既に1億9600万ユーロの人道支援を行ってきており、EUはチェチェンの最大の支援者となっている。また、EUは、政治的にも、ロシアのチェチェン抑圧を人権侵害であるとして非難している。
欧露関係は、経済的な側面では、欧露共同経済圏の創設推進や、独露パイプライン合意などの良好な関係を保つ一方、政治的には、EUは、オレンジ革命(親露独裁政権打倒)後のウクライナをEU加盟に方向付け、ベラルーシの親露政権(ルカシェンコ独裁政権)を公然と非難しミリンキェヴィッチ氏を支援する(これに対し、ロシア側はルカシェンコ側を支援する)など、権謀術数が繰り広げられており、一筋縄ではいかないものがある。
しかし、ドイツでのメルケル政権成立以来、徐々に欧州は合衆国と関係を改善させており、イランの核問題でも「合衆国・欧州」対「ロシア・中国」という構図となっている。ここ数年、合衆国と欧州は連携して中国やロシアの勢力を徐々に削減して封じ込める動きを見せており、EUがロシアのチェチェン迫害を非難することについては、その一環と見ることも可能である。
とはいえ、ロシアによるチェチェン迫害が、大量殺戮・大量破壊の非人道的な方法でなされていることもまた事実であり(第一次・第二次チェチェン紛争で15万人以上のチェチェン人が死亡したといわれており、首都グロズヌイは廃墟となった)、いずれにせよ人道的支援が必要であることはいうまでもない。
また、EUは、人権と基本的自由の尊重を基本価値としており、その意味でも、ロシアや中国の人権侵害を批判することは、EUの理念に叶うことであるといえる。
欧州委員会によれば、現在、チェチェン共和国内にいる約80万人のチェチェン人のうち、約20万人はイングーシなどから帰還した難民であり、また、チェチェン共和国外に避難した難民が3万9000人程度いる(イングーシに2万5000人、ダゲスタンに9000人、アゼルバイジャンに5000人)。グロズヌイをはじめとした都市では家屋が破壊され、特に南部では極度に治安が悪化している。
今回の人道支援では、食糧の配給、飲料水の確保、衛生施設の改善、地雷の危険性に関する啓蒙活動、戦争で心に傷を負った子どもたちの心理的ケア、初等教育・職業教育の実施などが支援の対象となる。
人道支援の実施主体となるのは、赤十字、デンマーク難民理事会、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、ユニセフ(UNICEF)、世界食糧計画(WFP)、反飢餓行動(Action contre la Faim)、世界医師(Médicins du Monde)など、現地で活動している団体である。
そもそも、ロシアの侵略に対するチェチェン人の抵抗運動は、18世紀にまで溯るものであり、チェチェン人の間には頑強な反露感情がある。しかも、チェチェン人はスンナ派のイスラム教徒であり、ロシア正教のロシア人とは宗教的にも相容れない。
また、1991年のチェチェン共和国による旧ソヴィエト連邦離脱宣言は、旧ソ連の「離脱法」、チェチェン憲法、チェチェン国民投票に基く合法的・民主的なものであったといわれている。