2006年01月30日 ベラルーシ情勢

EUがベラルーシ国民への情報提供プロジェクトを立ち上げ/大統領選挙に向けて偏向報道による情報統制を憂慮

ベニータ・フェッレーロ=ヴァルトナー
© European Community, 2006
欧州委員会のベニータ・フェッレーロ=ヴァルトナー委員(外交・近隣政策担当)。「EUは、ベラルーシの民主化と人権を支援するためにできることなら何でもやる決意です。ベラルーシ国民が自国に関する不党不偏の情報を収集する可能性を増大させ、彼らに外界への窓を提供することは、きわめて重要なことです(The EU is committed to doing all it can to support democratisation and human rights in Belarus. Increasing the possibilities for Belarusians to obtain impartial information about their own country, and giving them a window on the outside world is crucial.)」

欧州委員会は、中央ヨーロッパ時間26日、ベラルーシのメディアを自由化するプロジェクトに参加するメディア・コンソーシアムを発表した。

EU側の認識によれば、2004年のベラルーシ選挙においては、メディアがアレクサンドル・ルカシェンコ(Александр Лукашенко)大統領に統制されていたため、メディアはルカシェンコのプロパガンダを垂れ流し続け、結果的に選挙が不正なものとなったとしており、EUはこれを強く批判している。

ルカシェンコは、1994年の就任以来、民主化と逆行する政策をとりつづけてEU諸国の強い批判を浴びているが(しかも、最近では国内のポーランド系住民を弾圧しているという)、2004年には憲法改正の国民投票(レフェレンダム)を行って憲法を改正し、自己の三選を可能にした。そして、三回目の大統領選挙が今年3月19日に予定されている。

ルカシェンコの対抗馬として立候補するとされているのがアレクサンドル・ミリンキェヴィッチ(Александр Милинкевич)であるが、西欧のメディアにはよくとりあげられているものの、ベラルーシ国内の報道機関がルカシェンコに統制されているため、ほとんど国内メディアへの露出がない。

欧州委員会によれば、ベラルーシでは、テレビ局のディレクターや国営新聞の編集長は、大統領が自ら選任しているという。このため、親欧派の独立系ジャーナリストはほとんど活躍できていないという。

この事態を憂慮したEUは、次回の大統領選挙が公正に行われるためには、ベラルーシの報道機関によらないベラルーシ国民への情報提供が必要不可欠であると判断し、今回のプロジェクトを立ち上げた。

プロジェクトは、メディア・コンソーシアムにより、ベラルーシの国民に直接情報を提供すること。ベラルーシに関する「信頼できる偏向のない(reliable and balanced)」ニュースなどの情報を、ラジオ・テレビ・インターネットを通じて提供していくという。放送は、ベラルーシ語とロシア語で行われる。

欧州委員会は、2月には放送を開始するとしており、特に選挙の前後には特番を組んで、ラジオとテレビで放送するという。

そのほか、独立系のジャーナリストなども支援していくという。

ヴィクトル・ユシチェンコ
© European Community, 2005
ウクライナのヴィクトル・ユシチェンコ大統領。顔面の疾病痕跡は、ダイオキシン中毒によるもの。大統領選挙期間中の政敵による毒殺未遂といわれ、イゴール・スメシュコ国家保安長官との夕食後に発症した。

ウクライナでは、2004年の大統領選挙の際に、親欧派のユシチェンコ候補(現大統領)が親露派に毒殺されかけたほか、親露派のヤヌコヴィッチ候補側により数々の不正が行われたため、国民が激怒し、いわゆる「オレンジ革命」が成就してユシチェンコ氏が大統領に就任した経緯がある。

そのほか、2000年のユーゴスラヴィア革命は大統領選挙(ミロシェヴィッチ大統領側が不正を働いたとされる)がきっかけとなり、また、2003年のグルジア革命も議会選挙(シュヴァルナゼ大統領側が不正を働いたとされる)がきっかけとなった。

このように、不正選挙は往々にして独裁政権を打倒する民主革命のきっかけとなることが多く、3月のベラルーシの大統領選挙にも、大きな注目が集まっている。